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消化器内科

ピロリ菌とは?検査・除菌治療・除菌後の胃カメラについて

ピロリ菌とは?検査・除菌治療・除菌後の胃カメラについて

ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、胃の粘膜に感染する細菌です。

感染が長期間続くと慢性胃炎を起こし、胃粘膜の萎縮や腸上皮化生が進むことがあります。
また、ピロリ菌感染は胃がんの重要なリスク因子です。

一方、ピロリ菌に感染していても、自覚症状がない方は少なくありません。

ピロリ菌に感染しているのか。

過去に感染していた胃なのか。

胃粘膜にどの程度の変化が起きているのか。

除菌後にどのような経過観察が必要なのか。

この記事では、ピロリ菌の感染経路、胃がんとの関係、検査方法、
胃カメラ、除菌治療、除菌判定、そして除菌後の胃カメラについて解説します。

1
ピロリ菌とは?

ピロリ菌は、胃の強い酸の中でも生息できる細菌です。

多くの場合、幼少期に感染し、その後除菌されない限り、
長期間にわたって胃粘膜に感染し続けます。

感染が続くと胃粘膜に慢性的な炎症が起こり、
時間の経過とともに胃粘膜の萎縮が進むことがあります。

ピロリ菌感染は、

  • 慢性胃炎
  • 萎縮性胃炎
  • 腸上皮化生
  • 胃・十二指腸潰瘍
  • 胃MALTリンパ腫
  • 胃がん

など、さまざまな胃・十二指腸疾患と関連しています。

なかでも、当院が特に重視しているのが
胃がんとの関係です。

2
胃がんとピロリ菌には深い関係があります

現在の疫学研究では、

胃がんの大部分(約98〜99%)が、現在または過去のピロリ菌感染を背景に発生している

と報告されています。

一方、ピロリ菌に一度も感染したことのない
「未感染胃」から胃がんが発生することは非常に稀です。

Uemuraらの前向き研究では、ピロリ菌感染者1,246人を平均7.8年間追跡したところ
36人に胃がんが発生しましたが、非感染者280人からは胃がんが1例も発生しませんでした。


※参考:Uemura N, et al. N Engl J Med. 2001;345:784-789. ほか

また、ピロリ菌の感染率には地域差があります。


新潟県を含む日本海側から東北地方では、
比較的ピロリ菌感染率が高い傾向が報告されています。

そのため当院では、胃の症状があるかどうかだけではなく、

  • 現在ピロリ菌に感染しているのか
  • 過去にピロリ菌に感染していた胃なのか

を確認することを、胃がんリスクを考えるうえで大切にしています。

3
ピロリ菌の感染経路 ― どうして感染するの?

ピロリ菌がどのように人から人へ感染するのかについては、
まだ完全には解明されていません。

ただし現在では、

感染の多くは幼少期に起こり、家族内感染が重要な感染経路の一つ

と考えられています。

家族内感染が約8割、家族外からの感染が約2割とする報告もあります。

感染には唾液などを介した経路が関係すると考えられています。

以前は、親が食べ物を噛んでから子どもに与えたり、
離乳食を口移しで食べさせたりすることも珍しくありませんでした。

そのため、両親など身近な家族がピロリ菌に感染している場合、
こうした生活習慣が幼少期の家族内感染に関係していた可能性があります。

現在では、虫歯予防などの観点から口移しで離乳食を与える機会そのものが減っています。

衛生環境の改善とあわせて、こうした生活習慣の変化も
若い世代のピロリ菌感染率低下に関係していると考えられています。

4
ピロリ菌の感染率には大きな世代差があります

日本では、ピロリ菌の感染率に明らかな世代差があります。

国内17万人以上を解析した研究では、出生年代ごとの推定感染率は、

1960年生まれ
約49%
1970年生まれ
約35%
1980年生まれ
約25%
1990年生まれ
約16%
2000年生まれ
約7%

と報告されています。

さらに近年の日本の小児・若年者では感染率は一段と低下しており、
2011年生まれでは約3%まで低下したとの報告もあります。

この大きな世代差には、幼少期を過ごした時代の
衛生環境や生活環境の違い
が関係していると考えられています。

現在のように上下水道が十分に整備されていなかった時代には、
井戸水などを生活用水として使用する家庭も多くありました。

水を介した感染も、かつて感染率が高かった要因の一つと考えられています。

若い世代になるほどピロリ菌感染が少なくなっているのは、
単に年齢の問題ではなく、

日本の衛生環境や生活環境が大きく変化してきたことを反映しています。

※参考:Wang C, et al. Sci Rep. 2017; Okuda M, et al. J Infect Chemother. 2019.

5
ピロリ菌に感染していると症状がありますか?

ピロリ菌に感染していても、必ず症状が出るわけではありません。

胃痛、胃もたれ、食欲不振などを認める方もいますが、
まったく症状がないまま感染が続いている方も多くいます。

「胃が痛くないからピロリ菌はいない」とは判断できません。

健康診断や胃カメラをきっかけに、
初めて感染が疑われることもあります。

6
ピロリ菌はどのように調べますか?

ピロリ菌の検査には複数の方法があります。

代表的なものには、

  • 尿素呼気試験
  • 便中ヘリコバクター・ピロリ抗原検査
  • 血液・尿による抗体検査
  • 胃カメラ時の生検を用いた検査

などがあります。

どの検査が適しているかは、
現在の胃の状態、過去の除菌歴、内服薬などによって異なります。

また、ピロリ菌の検査では、

プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの薬剤によって結果に影響が出る場合があります。

現在服用している薬を確認したうえで、
適切な検査方法を選択します。

7
なぜピロリ菌の検査だけでなく胃カメラが必要なのですか?

ピロリ菌が陽性か陰性かを調べるだけでは、

その人の胃にどの程度の変化が起きているのかまでは分かりません。

胃カメラでは、

  • 胃粘膜の萎縮
  • 腸上皮化生
  • 胃粘膜の発赤
  • RAC(regular arrangement of collecting venules)
  • 鳥肌胃炎
  • 胃・十二指腸潰瘍
  • 胃がんの有無

などを直接観察できます。

特に、胃粘膜の萎縮や腸上皮化生がどの程度進んでいるかは、
その後の胃がんリスクを考えるうえでも重要な情報になります。

8
ピロリ菌除菌前の胃カメラが重要な理由

現在では、ピロリ菌感染胃炎に対する除菌治療を
保険診療で行うことができます。

しかし、以前からそうだったわけではありません。

私が消化器診療に携わり始めた頃には、
すでに消化器専門医の間で、
ピロリ菌感染が胃がんの発生に深く関係している
ことは重要な問題として認識されていました。
それでも当時の保険診療では、
ピロリ菌に感染しているというだけでは除菌治療を行うことができませんでした。

胃潰瘍や十二指腸潰瘍など、
当時の保険適用となる病気がない患者さんには、
将来の胃がんリスクを考え、
自費診療としてピロリ菌除菌を勧めていた時代があったのです。

2013年にH. pylori感染胃炎まで保険適用が拡大され、
慢性胃炎の段階で除菌治療を行えるようになりました。


これは、日本の胃がん予防にとって非常に大きな転換だったと私は思っています。

私にとって、ピロリ菌の除菌は一つのライフワークです

私は消化器・肝臓を専門として診療してきました。

その中で、長年強く意識してきたものが二つあります。

C型肝炎をなくすこと。

そして、ピロリ菌感染をできるだけ次の世代へ残さないことです。

C型肝炎は、かつて肝硬変や肝がんへ進行する大きな原因でした。
しかし治療は大きく進歩し、
現在では多くの患者さんでウイルスを排除できる時代になりました。

ピロリ菌も同じです。

胃がんの大部分がピロリ菌の現在または過去の感染と関係していることが分かり、
感染している人を見つけ、適切に除菌することができるようになりました。

原因が分かっていて、それを取り除く方法がある。

消化器を専門とする医師として、
これほど取り組む意味のあることはないと思っています。

もちろん、ピロリ菌を除菌すれば胃がんが完全になくなるわけではありません。
すでに萎縮性胃炎や腸上皮化生が進んだ胃では、
除菌後も胃がんが発生することがあります。

感染している人を見つける。

除菌する前に胃をきちんと診る。

確実に除菌できたことを確認する。

そして、除菌後の胃も長く診つづける。

そこまでがピロリ菌診療だと私は考えています。

除菌前だからこそ、胃をしっかり見る

現在、保険診療でピロリ菌感染胃炎の除菌治療を行う場合には、
内視鏡検査で胃炎を確認することが制度上の要件になっています。

しかし、私が除菌前の胃カメラで最も重要だと考えているのは、
胃炎があることを確認することではありません。


除菌する前に、小さな早期胃がんが隠れていないかを十分に観察することです。

ピロリ菌を除菌すると胃粘膜の活動性炎症は改善します。
一方で、

除菌前には背景粘膜との色調差から認識できた非常に小さな早期胃がんが、
除菌後には周囲の粘膜になじんで見つけにくくなることがあります。

だからこそ、当院では除菌治療を始める前の胃カメラで、
小さな早期胃がんが隠れていないか
丁寧に観察することを大切にしています。

ピロリ菌感染を確認する
↓
除菌前に胃カメラで胃を十分に観察する
↓
小さな早期胃がんが隠れていないか確認する
↓
胃粘膜の萎縮や腸上皮化生を評価する
↓
除菌治療を行う
↓
除菌できたことを確認する
↓
その後も必要な胃カメラを続ける


胃がんで苦しむ人を減らすためには、
どうしても大切なプロセスだと考えています。

9
経口と経鼻、どちらの胃カメラがよいですか?

当院では、経口内視鏡と経鼻内視鏡の両方に対応しています。

経鼻内視鏡は細径で嘔吐反射が起こりにくく、
鎮静剤を使用しなければ検査後に自動車を運転できるという利点があります。

一方、ピロリ菌感染胃、萎縮性胃炎、除菌後胃、胃がん治療後など、
胃がんリスクを考えて詳細な観察が必要な方には、
当院では
高精細・拡大観察に対応した経口内視鏡
を積極的にご提案しています。

経口内視鏡では鎮静剤を使用することもできます。

私自身も毎年胃カメラを受けていますが、
詳細な観察が可能な経口内視鏡を選んでいます。

どちらが適しているかは、
患者さんの希望だけでなく、胃がんリスクや検査目的も考えて選択します。

10
ピロリ菌の除菌治療はどのように行いますか?

ピロリ菌の除菌治療では、
胃酸の分泌を抑える薬と2種類の抗菌薬を組み合わせて服用します。

通常は7日間内服します。

治療中には、

  • 下痢・軟便
  • 味覚異常
  • 発疹
  • 腹部症状

などがみられることがあります。

薬の種類やアレルギー歴などを確認したうえで治療を行います。

一次除菌で除菌できなかった場合には、
抗菌薬の一部を変更して二次除菌を行います。

11
薬を飲み終わったら、それで除菌終了ですか?

いいえ。

除菌薬を飲み終えただけでは、
ピロリ菌が実際に消えたかどうかは分かりません。

治療後には除菌判定が必要です。

除菌治療終了後、一定期間をあけて検査を行い、
ピロリ菌が消失したことを確認します。

当院では、除菌判定に
便中ヘリコバクター・ピロリ抗原検査
を使用しています。

便を採取して調べる検査で、
除菌後の感染確認に用いることができます。

除菌判定を受けずに
「薬を飲んだから除菌できた」と判断してしまわないことが大切です。

12
ピロリ菌を除菌すれば、もう胃がんにはなりませんか?

いいえ。

ピロリ菌を除菌することで胃がんの発生リスクを低下させることが期待できますが、
胃がんリスクがゼロになるわけではありません。

特に、除菌するまでに胃粘膜の萎縮や腸上皮化生が進んでいた方では、
除菌後も胃がんが発生することがあります。

そのため、除菌後も胃粘膜の状態に応じて
胃カメラによる経過観察を続けることが重要です。

13
当院では除菌後の胃も継続して診ています

ピロリ菌除菌後の胃カメラは、
当院の胃カメラ診療でも非常に大きな割合を占めています。

2026年上半期 胃カメラ
490件
うちピロリ菌除菌後
287件(58.6%)

つまり、当院で胃カメラを受けている方の半数以上が、
すでにピロリ菌を除菌した後の患者さんです。

除菌後の胃では炎症が改善する一方で、
萎縮性胃炎や腸上皮化生など、
それまでのピロリ菌感染によって生じた胃粘膜の変化が残っていることがあります。

そのため、

除菌できたことを確認して終わりではなく、
その後の胃を長期的に診ていくこと

が重要です。

当院では2026年から、
胃カメラ全例をEGD Clinical Registryとして記録・検証しています。

2026年上半期には490件の胃カメラを行い、
病理検査で胃がんと確定した症例は6例でした。
この6例はいずれも、胃カメラ検査の時点で早期胃がんと診断していた症例です。

また、胃がん治療後の患者さんについても、
定期的な胃カメラによるサーベイランスを行っています。

感染を見つける。

除菌する。

除菌できたことを確認する。

そして、除菌後の胃も診つづける。

当院では、この一連の診療を大切にしています。

14
家族にピロリ菌がいる場合は検査した方がよいですか?

ピロリ菌では家族内感染が重要な感染経路の一つと考えられています。

そのため、

  • ご両親や兄弟姉妹にピロリ菌感染者がいる
  • ご家族に胃がんになった方がいる
  • 自分自身がこれまでピロリ菌検査を受けたことがない

といった場合には、
一度感染の有無を確認することを検討してもよいでしょう。

ただし、必要な検査は年齢、
これまでの胃カメラ歴、除菌歴などによって異なります。

また、現在ピロリ菌が検出されない場合でも、
過去に感染していた可能性がある胃と、
生まれてから一度も感染したことのない胃とでは、
胃がんリスクの考え方が異なります。

そのため当院では、検査結果だけではなく、
胃カメラでみた背景胃粘膜の状態も含めて判断すること
を大切にしています。

15
ピロリ菌についてよくある質問

ピロリ菌は自然に消えることがありますか?

長期間感染していたピロリ菌が、
自然に検出されなくなることはあります。

ただし、高度な胃粘膜萎縮などを背景としている場合もあります。


「現在のピロリ菌検査が陰性=これまで一度もピロリ菌に感染したことがない」

とは限りません。

胃カメラ所見や過去の検査結果も含めて判断することが重要です。

一度除菌すれば再感染しませんか?

成人で除菌に成功した後の再感染は多くありません。

ただし、まず重要なのは、
除菌薬を飲み終えたあとに
本当に除菌できたことを確認することです。

そのため、当院では除菌治療後に除菌判定を行います。

ピロリ菌が陰性なら胃がんになりませんか?

ピロリ菌に一度も感染したことのない「未感染胃」では、
胃がんが発生することは非常に稀です。

しかし、現在の検査でピロリ菌が陰性であっても、

  • 過去に除菌治療を受けている
  • 過去に感染していたピロリ菌が自然に検出されなくなっている
  • 高度な胃粘膜萎縮がある

など、過去の感染を背景としている場合があります。

そのため、ピロリ菌検査の結果だけで胃がんリスクを判断するのではなく、
胃カメラで背景胃粘膜を確認することが重要です。

ピロリ菌を除菌した後も胃カメラは必要ですか?

はい。

除菌によって胃がんの発生リスクは低下しますが、
ゼロにはなりません。

特に萎縮性胃炎や腸上皮化生が進んでいる方、
胃がんの治療歴がある方などでは、
除菌後も胃カメラによる経過観察が重要です。

検査の間隔については、
胃粘膜の状態やこれまでの病歴などをみながら個別に考えます。

最後に

ピロリ菌診療で大切なのは、
単に「菌がいるか、いないか」だけではありません。

感染している人を見つける。

除菌する前に胃をきちんと観察する。

適切に除菌する。

確実に除菌できたことを確認する。

そして、除菌後も胃がんリスクに応じて胃を診つづける。

そこまでがピロリ菌診療だと私は考えています。

かつては、胃がんとの関係が分かっていても、
保険診療では除菌できない患者さんがいました。

現在は、慢性胃炎の段階でピロリ菌を除菌できる時代です。
そして、若い世代ほど感染率は大きく低下しています。


原因が分かっていて、それを取り除く方法がある。
そして、次の世代では感染そのものを減らしていくことができる。

C型肝炎とともに、ピロリ菌感染をできるだけ減らしていくことは、
私が消化器・肝臓を専門として診療を続ける中で
大切にしてきたテーマの一つです。

一人ひとりの感染を見つけ、きちんと除菌し、
その後の胃まで診つづける。

その積み重ねによって、

将来、胃がんで苦しむ人を少しでも減らしていきたい

と考えています。

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